◎3、金管楽器の形と性能

今回は金管楽器、特にチューバの「形」について考えてみます。

今までに同じチューバでも、多種多様な形状の楽器があると思った事はありませんか? これは車などと同じように、色々な性能を追求することによって、各メーカーで工夫されたデザインになっているのです。 一般に工業の世界では、全ての性能を満足する「究極のデザイン」というのはまずありません。 必ずどこかで妥協し、全体のバランスを取ったデザイン、形になります。

例えば「速い」「たくさん荷物が積める」「燃費がいい」といった条件を満たす車を作ってみましょう。 手っ取り早く「速く」するためには、ガソリンをたくさん使えばいいですが、「燃費がいい」という条件を満足できません。 では、ボディを小さくして空気抵抗を減らしましょう。 ところが今度は「たくさん荷物が積める」という条件が満足できません。 つまり、全ての条件をバランスよく満足したポイントにある車がデザインされます。 分かりやすくするため、これらの性能をそれぞれ「スポーツタイプ(赤)」「トラッタイプ(黄)」「エコロジータイプ(青)」とし、 下のような図にしてみました。 それぞれの円が重なった部分が全ての条件を満たした車、一般車と言えるでしょう。

この例同様に、楽器でも色々な性能のバランスを考えて設計がされています。 性能の話に脱線しましたが、今回は楽器のどの部分の形が性能に影響するかを考えてみます。

○1、管の太さ
管の太さは楽器を吹いたときに最も違いを感じると思います。 単純に太ければたくさん空気を通すことができるので、息を大量に送れ、吹いたときの抵抗も少なくなります。

○2、管の厚さ
これは楽器の振動に影響します。 振動は、その物体の種類、質量、形状に大きく影響されます。 もし管の厚さが増えたならば、楽器の質量と形状も変わるため、吹奏感も変化するはずです。

○3、管の配置(管の曲げ方)
楽器をぱっと見て、すぐに分かる違いだと思います。 特にチューバは各社様々な管の巻き方をしており、見ていて飽きません。 管の形状の影響は、トロンボーンとユーフォニウムを比べれば分かりやすいと思います。 この2つの楽器はどちらもほぼ同じ音域、マウスピースを使用していますが、音も吹奏感も全然違います。 両者の大きな違いは2つあり、1つは「管の巻き方」、もう一つは「管の直径の変化」です。 管の巻き方は見ても分かるように、トロンボーンはほとんど管を巻かず、ストレート部が大半です。 一方のユーフォニウムはチューバのようにぐるぐる管を巻いているため、ほとんどストレートな部分がありません。 巻き方の違いはそのまま吹奏感と音質に影響し、 ストレートな形状の場合「ストレートな音」や「抵抗の少ない吹奏感」となります。 ぐるぐると管を巻いている場合はほぼ逆で、「柔らかい音」「若干抵抗のある吹奏感となるのです。

では「管の直径の変化」とは何でしょうか。 下に双方の楽器を一直線に引き伸ばした図を載せました。

トロンボーンはずっと管の直径が一定でベル付近で拡がっています。 一方、ユーフォニウムは途中から直径が拡がり始めています。

このように「管の巻き方」と「管の直径の変化」は、 トロンボーンとユーフォニウムを比べればいかに影響しているかが分かると思います。 チューバでもこれに近いものがあり、円錐管と円筒管の2種類があるようです。


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