6、巨大マウスピースX003

前回シャンクを削り過ぎたX002。 しかしメガトンマッピは作りやすいという発見は重要でした。 X003もメガトンマッピにする事は即座に決定。 X002と同じでは面白くないため、細部の設計を変更してみました。

まず、X002の場合は円筒部の直径がφ48(ミリ)だったのですが、X003では素材の大きさを限界まで活かし、 直径φ50(ミリ)にしました。 さらにX002ではデザインとして円錐部を作っていましたが、X003では質量を増すために円錐をなくし、完全な円筒形状としました。


X002とX003の比較

X002以上に切削量を減らしたX003、質量も全然違います。 ちなみに、X003の俗称はドアノブ。 確かに一見したところ、手に持って回したくなってしまう形です。


とりあえず外側を切削し(といってもほとんど削るとことはないですが)、カップを荒削りした段階で作業休止。 カップやリムをどうしようか、と考えました。 実は前回のX002は外見こそメガトンマッピですが、X001同様にヘルバーグのリムとカップをコピーしました (ただし、カップの直径が小さくなってしまいましたが)。 今回もまたヘルバーグのコピーでは面白くない。

そこで、ニッカン縦バス改造でも登場した、友人の宍子にお願いしました。 彼はペラントゥッチの「PT-88Megatoni」を半年ほど前に買っていたのです。 これはペラントゥッチのスタンダードなマウスピース、PT88のメガトン版です。 しかし、これはX002やX003のような円筒形ではなく、比較的普通のマウスピースに近い形でした。 X003にはこのPT88Megatoniのカップとリムをコピーする事にしました。

リムを削っては宍子が試奏、カップを削っては宍子が試奏、バックボアを削っては…。 これの繰り返しです。 私の旋盤の技術が未熟で、まだまだカップ表面を滑らかに削れません。 リムは削りやすいので、比較的綺麗に仕上がるのですが、奥にあって細いバックボアの切削は困難を極めました。 それでも格闘すること2時間、コピー元のPT88Megatoniに近いリムとカップ、吹奏感を得ることができました。


さて、X003が完成したのはある日の夕方。 ちょうど宍子が所属している一般バンドの練習開始時間でした。 彼のバンドは市のホールを借りているので、そのままホールでの試奏をしてしまおう!という事に。 (実際は私が彼にお願いした部分が大きいです…)

メッキもされていないX003は完成後数時間でいきなり舞台に上がりました。 彼が合奏に参加し、私はホール客席で聞いていましたが、ものすごい低音のパンチです。 彼はルドルフのB♭管5ロータリーを使用しているのですが、楽器との相性か、芯のある音が飛んできました。

後日、今度は私が所属しているバンドでX003を吹いていたのですが、
倍音が薄いね
という意見を得ることができました。 なるほど、芯のある音になるという事は、倍音が少なくて音がはっきりしているためかもしれません。 さらに倍音に使われるはずの振動のエネルギーが、根音の芯に使われているのかもしれません。

本来金管低音はチューバが肉、バストロンボーンが骨の役割をして低音を形成していますが、 X003のようなマウスピースを使用するとチューバがバストロ的役割を果たす事になります。 逆に言えば、X003はアンサンブルに不向きなマッピ。 メガトンはオーケストラ向きだと聞いた事もありますが、果たしてどういう使い道が一番有効なのでしょうか。 ただ一つ言える事は、極端な性能を求めると使用方法が限定されてしまう、という事です。


次回は再びヘルバーグのコピーに挑戦したX004についてです。 X001、X002、X003と3つのマウスピースを製作した経験を元に、X001よりも精度の高いコピーを目指します。


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