「ヘコ出し」というのは、楽器の凹みを直す事です。
ベル周辺の凹みであればそのままベルから棒を差し込み、凹みを押し出す事ができます。
しかし楽器の奥の方やU字管などは楽器を分解しなければなりません。
さらに今回のページは非常に量が多いです。 (裏を返せば凹みがそれだけ多かった、凹みを直すのが大変だったという事になりますが…) 今回の修復過程はまさに楽器の製作過程、先人たちの知恵に触れる機会にもなりました。
たいていチューバはベルを下にして置きます。 しかしチューバは不安定な形であり、少しでも傾斜した場所に置けば簡単に倒れてしまいます。 その際に右写真の部位から左写真の部位に当たってしまうので、 残念な事に多くの学校の備品チューバでこの部分に凹みが見られます。 しかもこの楽器、ベルも平面になっておらず、楽器の不安定さが増していました。 何度転倒したのか見当もつきません。
○底部U字管の修理
左の写真は分解した直後のU字管。 恐るべき凹みです…。 右側の写真はまだ修理途中ですが、何とか円に近づいてきました。 しかしなかなか元の形状には戻りません。 幾多の凹みが重なり合い、複雑な形状になっていたのです。 残念ながら完全に修復する事はできず、このU字管のヘコ出しは途中で妥協せざるを得ませんでした。
○上部U字管の修理
上段写真は分解したU字管。 この部分は接続部のへこみはひどくないのですが、U字部分の凹みがひどいものでした。 底部U字管と違い、この部分の修復は意外に上手くいきました。 底部U字管は小さな点状の凹みの集合でしたが、 この部分は大きな凹みがいくつか集合したものでした。 明らかに衝突した回数の多い底部U字管の方が、加工硬化を起こしていたのかもしれません。
○円筒部の修理
ベルと対称に位置する円筒形のパーツ。 こちらも転倒による凹みのため、下の左側写真のように円筒ではなくトンネル型になっていました。 これを修正して右写真のようにほぼ円形に修正しました。
○マウスパイプの修理
この凹み、どうやら私が分解した際に何かをぶつけて、あるいは押さえつけたためにできてしまった様子。 私はこの楽器を修理しているのか、壊しているのか…。 気を取り直してこの部分の修正方法を検討。 マウスパイプは微妙な曲線を描いており、内部に棒を差し込んでの修理は難しく、ほぼ不可能。 そこで楽器製作時に管を曲げる方法を使用。 それは管に鉛を溶かし込んで曲げる。 内部が空洞な管、これをそのまま曲げるとしわができてしまうのです。 ところが内部を鉛で埋めて棒のようにすると、曲げてもしわはできず、きれいな曲線になるのです。 この方法でマウスパイプを一旦まっすぐにし、内部に棒を差し込んで凹みを修正。 その後再びマウスパイプを曲げて元の形にしました。
まず鉛を溶かすのに一苦労で、何とカセットコンロ用のガスボンベ一個を半分近く使用。 そしてマウスパイプ内に均等に鉛を注ぎ込むのに一苦労。 本当はお湯の温度で融解する特殊な鉛が販売されているのですが、手元にあった釣り用のオモリを使ってしまいました。 他にも管に水を入れて凍らせて曲げる方法もあるようです。 こちらの方がお手軽でしょうが、家の冷凍庫に入らなかったので断念しました。
かなり長くなってしまいましたが、実際ヘコ出しに3日も費やしたのでこんなに長いのです…。
これは今回アドバイザーとして色々教えてもらった飯倉君に言われた |
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