◎研磨

楽器の修理だけであれば、ヘコ出しを終えた時点で組み立てても構いません。 しかし、今回はこの楽器に往年の輝きを復活させるため、 サビを落とし、ラッカーも剥がし、ノンラッカーにする事にしました。

ピストンと抜き差し管を除くパーツを全て研磨しましたが、ここでは主にベルの研磨過程を書いていきます。


○ベルの研磨

ベルの最初の状態です。 すでに左上の方だけ少し布ペーパーで研磨してあります。 ここから順に研磨していくのですが、粗目から細目へと順にペーパーを変えます。 順番は布ペーパーの100番、400番、耐水ペーパーの1000番、1500番。 番号が大きくなるほど細かくなります。 仕上げはコンパウンドで研磨。 コンパウンドを布に塗って磨くのが普通ですが、今回はドリル用のバフを購入し、作業を楽にしました。


400番で研磨

コンパウンドで研磨

上の左の写真と右の写真では、金属の輝きが全く違うのが分かると思います。 この部分はいきなり400番、1000番の順で研磨した後、コンパウンドで磨いてしまいましたが、 は前述のように粗目から細目の順番に研磨した方がきれいになります。

左の写真でベルの円周部に茶色の模様が見えますが、これはベルの凹んだ部分です。 凹んだ部分が磨けず、残ったサビの茶色が見えているわけです。 お陰でこれを逆手に利用して凹みを見つけ、修理することもできました。 凹みを直す→磨く→直す、を繰り返すことで、凹みが直った部分のサビが取れ、きれい直すことができるのです。


しかしベルの内部だけでなく、外側も研磨しなければなりません。 インナーゴールドもどきにする事も考えましたが、 せっかく分解したので、磨きやすい今のうちに全て磨く事にしたのです。



左の写真からは磨いた部分と元の部分とで色が全く異なっている事が分かります。 ヘコ出しで多少妥協した部分も、楽器全体がこの真鍮の輝きになればかなり綺麗に見えるはずです。 (ごまかしているともいう…)


1000番で研磨

輝きがないため、エンブレムが見えません

コンパウンドで研磨

見事にエンブレムも浮き上がってきました

上の4枚の写真を見ると、劇的に輝きが出てくることが分かります。 錆びていたのは手があたる部分などで、ベルの大半にはラッカーは残っていました。 しかし、ラッカーを残したまま磨いても、時間が経つにつれて変色の度合いが異なってしまいます。 楽器全体に色ムラがあるのは見栄えが良くありません。 そこで今回は全て研磨して色合いを統一したわけです。

注意しなければならないのは、ただラッカーを落として磨いただけではどんどん茶色に変色、つまり錆びが進行する事です。 磨いた直後にラッカーを塗布した楽器が、 一般に市販されているラッカー仕上げの楽器に相当します。 しかし、磨いた後に放置すればその名のとおりノンラッカーとなり、 年月が経つにつれて錆びてくるわけです。

ラッカーそのものの歴史も奥深いものです。 もともとは全ての金管楽器にはラッカーというものは塗布されていませんでした。 昔の金管楽器奏者は皆コンパウンド等でせっせと磨いていたのです。 そういったメンテナンスのわずらわしさからラッカー塗布技術が開発されたようです。

そしてラッカーの有無で音が変わるという意見がありますが、私は半信半疑です。 多分微視的には変わるのでしょうが、それは奏者の技量で変えられる、操作できる範囲の変化だと思っています。 例えば音色の変化であれば、アンブッシュア等の調節で奏者の思った音色に変えられる範囲、という意味です。

私の勉強不足でラッカーの成分が詳しく分からないのですが、 クリアスプレーのような市販されているコーティング剤とは違うようです。 聞いた話では化粧品のマニキュアがラッカーに近いようです。 しかし今回はノンラッカーにして、昔の楽器らしくあえて徐々に古びさせる事にしました。 全体がいい色に変わっていくのが楽しみです。


○ピストン周辺のラッカー剥離

ピストン周辺は隙間に手が入らず、簡単に研磨することができませんでした。 そこで、作業のしにくい部分については剥離剤を使用しました。 剥離剤とはその名の通り塗膜を剥離させる、一種の溶剤です。 剥離させたい部分にハケで剥離剤を塗り、待つこと30分。 ヘラでこすればボロボロとラッカーが剥げ落ちました。 誤って新品の楽器に塗れば悲惨な事態になるのは確実、それぐらい強力です。


剥離剤をハケで塗る


こうして全パーツのサビ落とし、ラッカー剥がしが完了しました。


研磨前

研磨後

ヘコ出しも研磨も終わり、いよいよ次は組み立て作業に入ります。 楽器の性能に最も影響する作業だけに、かなり心配でもあります…。


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